生産者名 寄元 和浩 さん
「自家採種の重要性」
毎年恒例の種採りワークショップを行っています。
例年通り品目は、スタンダードな「黒田五寸人参」ほうれん草の中では一番美味しいという「日本ほうれん草」そして熊本在来の「熊本京菜」と3種類の種です。
先に収穫し乾燥していたものを、種をまける状態にするまでの脱粒と選別が当日の作業。
叩いたり手でもみ合わせたりしてさやから脱粒し、その後に昔ながらの唐箕(とうみ)を使って風選します。
にんじんの種が出来る頃に合わせて行うと、ワークショップは7月で梅雨の真っ只中。
種の保存にとっては乾燥が大切。水分が多いとカビによって発芽しなくなることもしばしばなので、特に気を使う時季です。
「種にも色んな種類がある」
種は次の世代に残す大切なもの。「一番良い株を種のために、二番目に自分の家族が食べるために、そして残ったものを販売にしなさい。」種取りの勉強を始めた時に、先生から聞いた話です。しかし現状は、殆どの生産者は経済的なことを優先することが多く、一番良い株を販売用の商品にしてしまうという、順番がまったく逆になってしまっているのではないかと思います。
固定種は種採りしていくうちに特徴が固定化された品種で、その土地に根付いた品種を在来種といいます。これらの品種は地元で消費することが殆どだったため、流通などは前提にしていないので、美味しい、作りやすい、などの特長を持った品種です。
しかし利点ばかりではありません。生育にも多少ばらつきがあるので形がそろわない事や、
皮が柔らかく裂けたり折れやすかったりするので流通に向かない。昨今は野菜の甘さだけが強調されるので、酸味、渋み、などのバランスの良さも逆に欠点となるのかもしれません。
また、種採りのための苦労があります。
収穫から種をとるために、長期間畑を専有してしまいます。たとえばニンジン、種まきは8月で収穫は11月から3月頃まで。種ができるのは7月、食べるための収穫後、種のために4ヶ月以上は畑に置きます。種の収穫後も、乾燥させ湿気の来ないように管理することが必要です。その間のコストは知られていないし、価格に反映されにくいのが現状です。
殆どの農家は、そんな面倒なことなら種は買ったほうがいいとなるでしょう。
「不自然になっていく種」
現在、種苗会社の宣伝や価格、流通などの影響で品種改良された野菜が主流になり、固定種や在来種を作付している農家は減少しています。
種苗会社で作られ多く出回っている種のF1(一代交配種)とはどんなものでしょう。
親株は固定種で、母親株と父親株それぞれのいい所を交配させたハイブリッドの品種です。
異なった品種と掛け合わせたときの一代目の種は雑種強勢といって、揃いがいい、生育が早いなどの親の優性だけが強く現れる特徴を持ちます。
流通のために皮が固くつぶれにくい、加工しやすく形が均一、見た目がきれい、などが優先され、食味が欠落したもの、糖度だけを特化したために害虫がつきやすく農薬が必須なもの、早く育つように育種されたものなどが多く見られます。
また、最近のF1は雄性不稔という異常株を使ったものが増えています。
雄性不稔とは雄しべに異常があり受粉できず種を残せない株、これは自然界にまれにあるものなのですが、種ができないので増えることがありません。この異常株を人為的に増やしF1の種を作る時に利用しています。
「知らないことはもったいない」
いまや技術がすすんで、ほかにも自然界では起こらない遺伝子の組み込み、放射線をあてて異常により起こった品種など様々な種があります。
これらの種を次世代に使うことは疑問です。またそうやって改良された品種には表示がなく、私たちは選別することができません、知らない間に入ってきているかもしれないのです。
固定種や在来種には、いい品種があるのに作られていないというのはとてももったいないことだと思います。生産者が美味しい野菜を食べるために残してきた品種です。ぜひ、興味を持ってどんな品種があるか意識して、ちょっと調べたり、聞いてみたりしてみましょう。
きっと野菜の味が変わってくると思います。
寄元和浩さん談