完全農薬肥料不使用の自然栽培のオリーブ畑を自ら所有し、オリジナル商品「アサクラオイル」を開発された朝倉玲子さんご本人による執筆文です。ぜひ産地の風も一緒に感じてください。
■朝倉玲子さんプロフィール
1996年よりイタリアに渡り、料理・オリーブ栽培を学ぶ。その後、2,000年より福島県会津若松市にて、オリーブオイルを中心としたイタリア食材の輸入販売を行いながら、2006年からは自身もイタリアで自然栽培のオリーブ栽培・加工・販売を開始する。現在は全国でオリーブオイルの使い方料理教室を開催しながら、オリーブオイルの本当の美味しさ・使い方を普及されている。

皆様はじめまして。私は福島県会津若松市でオリーブオイルを中心にタリア食材の輸入販売をしています。来年はこの仕事を始めて20年目を迎えます。
唐突ですが皆さんはオリーブオイルについてどう思われていますか?
私はなぜイタリア料理で多用するのか理解できませんでした。独特のにおいと火を通した時に漂う重い香りに違和感がありました。その後イタリアでイタリア人が食べている日々の料理を知りオリーブオイルの味わいがいままでのものとは全く別物であることを思い知らされました。
1996年に料理修業に行った先の南イタリア・プーリア州はイタリア内でもオリーブの大産地でした。修業先の農家民宿がたまたま有機オリーブ農家でした。料理するのはお母さんのニーナさん。料理する全ての鍋に黒い瓶に入った液体をどっと入れるのです。いったい何を入れているんだろうと聞いてみると、「オリーブオイル」と答えたのです。のけぞり驚いたのを今でもよく覚えています。その入れる量の多さは日本人の食用油脂としての域をはるかに超えており、あの嫌な香りのする得体のしれないオイルをなぜこんなに入れるのか?全く意味が分かりませんでした。しかし出来上がる料理の鍋からはおいしそうな匂いが漂ってきます。私が想像していた嫌な臭いは一切しないのです。私はその民宿の料理からオリーブオイルの概念が180度変わり、全く日本にはその良さが伝わっていないことに気づくと共にオリーブオイルにどんどん魅せられていきました。
その後はオリーブオイルと家庭料理の研究でオリーブ農家の民宿を転々としました。3軒目の民宿でまた転機がありました。オリーブの搾油所に初めて行き、生の果実を水分と油分、繊維質に分けその油分そのままオリーブオイルになることを実際この目で見ました。言い換えればフレッシュフルーツの果汁がオリーブオイルです。

しかし同時にその搾油所に置いてある業務用ピーナッツオイル缶がエキストラバージンオイルの増量剤に使われていることを知り、聞くと純粋なエキストラバージンは非常に貴重、みな増量のため年産の古いものや外国産のもの、悪質な場合は私が見た違う種類の食用油を混ぜ流通させることを知り愕然としました。ああ、あの嫌な香りのする原因はそういう事だったのかと日本を思い出しました。これまでオリーブ栽培をしている農家民宿の素晴らしいオリーブオイルを食べ続け、なぜまっとうなオリーブオイルが日本に届いていないのか?そしてオリーブオイルの本当の美味しさを日本の人に知ってもらいたい、というスイッチがオンになったのは言うまでもありません。私は三年の料理修業のかたわら日本人の舌に相応しいオイルを探し輸入販売の道が自ずとできていきました。
帰国しオリーブオイルの歴史のない日本人の為にシンプルな素材でなるべく削ぎ落したレシピで「オリーブオイル使い方教室」を始めました。使い方の基本を理解していただきオリーブオイルが“おいしい”ということを腑に落としていただき少しずつ広がっていきました。
そして数年経ち、自然栽培というものを知りました。
有機栽培さえも過剰な堆肥や農薬の影響で身体に反応が出る化学物質過敏症の方の存在を知ったことがきっかけでした。大変な時代が来たことを感じつつオリーブオイルも無農薬無肥料で作られたものを探さなくては、と思うようになり探しましたがそういうものはなく自分でやることを決断。そして中部イタリアのアブルッツォ州に畑を見つけ2006年に初めてオリジナルオイル「アサクラオイル」をリリースすることができました。
「自分でやってみる」これほど学べることはありません。現在販売中の2018年産は13年目のものですが初めは出来るままに無我夢中でした。しかし年々生える草の種類が変わり畑の風景が変わり始めカチカチだった粘土質の大地も今ではふかふかに変化し土壌が変わり、そしてオイルの味さえも変わっていくのも13年経ったからこそ分かります。畑に何も施さない、出来るだけ自然環境のままにをすることにより生物の多様性のもたらす恩恵は未知数でこれからさらにどのような畑と土壌になるかが実験です。
またこのように大自然に育まれた農産物は力強く生命力に満ちた食べ物と言えると私は思います。
毎年テイスティングしお料理し食べて味わいの変化を感じながら経験値を増やすことで、自分で感じて舌や食後感など身体でわかってくることは多く、情報に左右されるのではなく自分軸をしっかり作るうえでもほんものを食べる、触れることの大事さをオリーブに関わり思います。
オリーブオイルの使い方教室も20年近く経ちオリーブオイルはあくまで調味料で素材に加え、生使いまた加熱に使ってももちろん大丈夫で熱することで素材の味をグンと引きだしてくれます。(但し高温はだめです)醤油や味噌、出し汁などの旨みを加える日本料理とはまったく概念の違うのがイタリア料理です。
オリーブオイルと塩だけで基本料理するイタリア料理には学ぶところは大きく主役になる野菜など素材の質が問われます。自然栽培や有機栽培の野菜と一般栽培の味が全く違うことにも気づかされます。
是非一度オリーブの使い方の教室も体験していただきたいです。
さてオリーブを介して日本でもイタリアでもそのご縁が広がっています。
私は現在そのご縁で数種類のオリーブオイルを扱っております。どれも個性的で高品質なものばかりですが、その中で一番新しい取扱いのオリーブオイルについて皆さんにご理解いただきたいと思っています。

「わら一本」というちょっと妙な名前のオリーブオイルの生産者は、イタリア中部のウンブリア州で新規就農した34歳の青年マイケルです。農業大学に通っていたパートナーのマルタが農業研修に来ていたアフリカ人からもらった本、故・福岡正信著「わら一本の革命」が彼らに大きな影響を与えました。彼らの生まれ故郷はローマ近郊の小さな村。その村を支えるのはヘーゼルナッツ栽培。子供のころあったオリーブやブドウがすべてヘーゼルナッツにとって代わり大量の農薬と化学肥料漬けの栽培に変わってしまい、又連動するように健康被害で病気になる村の人を見ていく中、この農業は間違っていると思うようになり自然を破壊しない自然に寄り添った栽培をしたい、と思うようになっていったそうです。
食べるものをつくることに行きつき、自分なりに農業にチャレンジしていたそうです。
しかしうまくいかず悶々とした日々を過ごす中での本「わら一本の革命」との出会いでした。彼らは生まれ故郷では自然栽培は難しいと今畑のあるウンブリアに引っ越します。オリーブ畑付の民宿を借り本格的に栽培し始めたのが2011年。無我夢中で始まりましたが秋になるとできるオリーブ。搾油してオイルになりますがそれを受け止めてくれる買い手がいなく困っていました。前述のように混ぜ物の安価なオリーブオイルがイタリア内でも普及している昨今。まっとうに作られたものはそれなりの値段がします。安価なものでいい、国産でなくていい、この流れはイタリア内の耕作放棄地が増える原因にもなっています。
マイケルは言います「食べ物は命をつくるもの。そして農業こそそれを作り出すことができる尊い仕事」「耕作放棄による数百年・数千年受け継がれてきた荒れたオリーブ畑を見るに忍びない、美しいウンブリアの景観が崩れていくのが残念、少しでも景観を元に戻したい」と。
私はもう十分な数のオイルを販売しており、正直これ以上のアイテムを増やすことは経営上厳しい状態でしたが、日本人の著書の本を読みしかも自然栽培でオリーブオイルをつくる若者を応援できるのは私しかいないと自分を奮い立たせ、マイケルをサポートすることを覚悟しました。
今年で4年目の輸入になるわら一本。 これから将来の大地を支えていく一人の青年のつくるわら一本。私はオイルの良さはもちろん、一人の青年が見て感じ、考えて実践し成長していく姿に無限の可能性を感じると共に出来るサポートを今後もしていきたいと思っています。
私の一人の力では到底無理で共感をもって応援してくださる方が必要です。これをお読み下さった皆さんにもぜひ応援いただけますようお願い申し上げます。
オリーブオイルの素晴らしさを実際に使っていただき実感していただき、それが生産者の応援と持続可能な大地を将来に繋いでゆけることにつながります。そしてその連鎖は皆さんの食卓の笑顔に間違いなく繋がっていきます。
文・朝倉 玲子


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